2007/06/04

そのときは彼によろしく

評価:★★★★☆(4つ星)

誰もが誰かの触媒であり、世の中は様々な化学反応に満ちている。それがきっと生きているってことなんだと思う。(原作366ページより)

市川拓司原作の映画化はこれ3つ目だ
『恋愛寫眞』、『今、会いにゆきます』、そして『そのときは彼によろしく』
毎回感じることは、小説を映画が越えられないなぁ、ということ

彼の描く世界に共通して見られる特徴に、SFファンタジー的なフィクションがある
上記の3作品ではないが、水の中でしか生きられなくなってしまう少年や、年がどんどん若くなる女性などがその例だ

そして『そのときは彼によろしく』も市川ワールドが全開の作品
しかし、彼はその唯一のフィクションが存在する世界を、実に緻密に描写する技術があり、違和感のようなものは全く感じない
むしろリアリティすら持っている

そして、表現手段が小説ということも大きな要因だと言える
というのも、小説は不完全なメディアゆえに、視聴者による補完が多くなされるからだ

文字で「絶世の美女」と書けば受け手は誰もが頭にある絶世の美女を浮かべる
これが映画などではそうはいかない
映像に映るヒロインへの評価というものは人によって異なるからだ
視覚的な情報は視聴者の主観で決まってしまう

この視聴者による補完が、彼の作風である緻密に描かれたフィクションにリアリティを持たす役割を果たしている
少々強引な場面があったとしても、受け手は最大限の想像力を働かせてズレを修正してくれる

そしてそれが最初に言った、どの映画も小説を越えられない理由ではないだろうか?
つまり彼の世界を映像として伝えることの難しさがあるのでは?ということだ

作り手はフィクションが存在する世界に対してリアリティを演出しづらく
受け手はどこかぎこちない映像に感情移入しづらい

こういった問題が市川小説の映像化に際して大きな障害としてあるのだろう
『そのときは彼によろしく』も、その壁を越えることが出来なかったように感じる

とまぁ色々と映画に関してマイナスとも取れる発言をしているが、小説を直前に読んでから行った身としては設定にやや不満はあるけれど、作品自体はかなり楽しめた
ヒロインの幼少期のを演じた女の子の演技は光っていたし、よくありがちな小説を見てないと分かりづらい作品にもなっていなかった

確かに小説は越えることは叶わなかったが星は4つあげても良いとと思う
普通に満足

===

映像とは関係のないところで思ったことを2つ


幼少期の別れのシーンで別れ際にキスをするという場面がある
数ある場面の中でもとりわけ印象深いシーンであると共に小学生同士のキスという絵が持つパワーも強く、甘酸っぱい思い出として上手に描かれている

が、が、しかし、問題はそんなことではない
役を演じていた子供たちの年頃において、キスがどれくらい意味深いものであるかということだ
熟女とおっさんが舌同士をベロベロさせようがグチョグチョさせようが、そんなのどーでもいい
ただあの子たち位の年代というのは、徐々に異性を気にするようになったり、今思うとどーでもいいことで死ぬほど恥ずかしがったり、どーにかして好きなあの子と手を繋ぎたいって悩んだりするという甘酸っぱい時代だったと思うんだ

商業ベースに乗せられた彼女たちの本来あるべき、あの年代の子が必ず抱くべき、恥ずかしさや異性に対する興味・妄想みたいなものが、大人たちの都合によって奪われてるとすると、とても胸が痛くなる
そんなことを見ながら感じていてテンションを落としてまった


ちゅらさんってNHKの連続テレビ小説があった
国仲涼子が姉ちゃんで山田孝之が弟として登場する

・・・はい、この映像のキャストです
構図としては姉ちゃんが弟に片思いするというものでした

プロダクションの関係とか、使える若手俳優のリソース不足とかで、選択肢が少ないということはもちろん分かるんですけど、ちゅらさんが好きだったばっかりに、映画の世界に入っていきづらいなぁという感じを受けました

そのときは彼によろしく